日々生きる酵母たち

酵母は、目で見ることはできない
けれど、確かにいつもそばに生きていて
私がパンを作らせていただくなかで
その活動は必要不可欠だ

パン、という存在のなかで
多く人々の身体に摂取される酵母は
イースト菌だろう

企業・人がパン、を作るにあたって
コントロールしやすく培養された単一の酵母が
イースト菌である
家庭においては、気軽に
企業においては、工業的に
パンを作ることを
可能にしている酵母、と私は捉えている

私がパンを作るにあたって
使わせていただいている
(もはや、酵母に私が使われている
とも言えるだろう)酵母は
果物や野菜・野草のタネや皮と
ラムネ温泉水から湧き上がってくる

これらの酵母は
まったくもって工業的でない
人間の思ったようには働かないイノチ

彼らは真っ直ぐに
只生きているだけだ

私はその活動を日々聴き取り、
その活動に追いつこうと、
寄り添おうとする

時に我を優先するあまり、
その日の気候を鑑みることができないあまり、
思い描いていたものとは異なるパンが焼ける

そんなときは目に見えない何かに
謝ったりもする

私の自我では制御できないこのイノチと共に
私はなぜパンを焼くのか

制御できない多様な活動を行う酵母たちが
でんぷんを食べて
アルコールと二酸化炭素を作るこの活動で
出来上がるパンは
鼻腔に残る芳しい香りを作り、
口にした時の味わい、
は忘れがたいものになると実感している
そして酵母たちが身体に入った後の活動、
人類が培ってきたパンの作り方・
焼き方・保存方法などの文化
その全てが私にとって興味深いのです

ゆっくりと時間をかけて
発酵していく酵母たちは
消化しやすくしてくれ、
身体の中に酵母が入ることで
免疫機能にも影響を与えてくれる

失敗という経験を繰り返し、学んでいく中で
私を豊かに、広くしてくれる酵母たちとこれからも生きていきたいと考えています

小麦と向き合う

大分県竹田市荻町(おぎまち)の駅近くに
戦後まもなく造られた製粉機を持つ製粉所があります

製粉所には、小麦の甘い香りが漂っています
(私は、こちらの小麦粉に出会うまで、小麦粉の甘い香りを知りませんでした)

私は、こちらの製粉所と、
働くおじさんたちが大好きです

この古い製粉機は、小麦に高い温度を加えることなく挽いてくれるので、小麦の香りと風味を損なうことなく、粉にしてくれます

また、いただいた後、消化にも負担がかかりにくいとも感じます

パンを作る仕事をさせていただいていると
小麦は控えているんです、と聞くこともよくあります
(体質に合わない、
合わなくなった方もいらっしゃると存じます)

ただ、一括りに、小麦は悪者とされるのは、
なんだか悲しくて

それは、小麦が想像できないくらい長い間
我々人間の命を紡ぎ、満たしてくれた穀物だから
大切に、大切に、文化やイノチを継いでいきたいと考えるのです

tautoがパンに使わせていただく小麦は
グルテン量の少ない地粉(中力粉)チクゴイズミ
を主体にしています
グルテン量の多い強力粉で作るパンのように
ふわふわ、に仕上がることはありませんが
天然酵母と地粉で発酵していくパンは
風味良く、
味わい深く、
消化にも良いパンに仕上がります

毎日いただきたいパンを
作らせていただきたいから
目には見えない、ところを注意深く考え
日々学び、
大切に考えるところを忘れずにいたいと考えています

お塩

大分へ越してきた後、大分の佐伯(さいき)で
お塩をつくられていると聞いて心が高鳴った

佐伯 米水津(よのうず)にある
製塩所にうかがった時、
前に広がる砂浜に心揺さぶられた

普段竹田の山で暮らす私の身体へ
風が運ぶ塩が吸収されていくようだった

薪で釜炊きで作られる塩と
天日で作られる塩

工場長の永井さんが軽々と走り回り
黙々と塩を仕上げていく

その姿に
見惚れた。

何度も製塩所を訪ねては、
永井さんのパワーと
場所のパワーをいただいてパン作りに生かしている気がする

温泉水を身体に

竹田に移住し、毎日のように温泉に浸かって
飲んで過ごすことで、同じ温泉水なのに
感じる味わいに変化を感じるようになった
初めは、鉄のような味がして、
とてもじゃないが一口も飲めない
時が過ぎて気がつくと
甘味すら感じるようになってくる
身体のミネラルバランスが調和してきた証拠だ

その温泉水を、パン作りにどうぞ、と
ラムネ温泉館の館長さんからお声かけいただいた時
私は興奮した

(以前は、パキスタンのピンクソルト(硫黄の香りがする)と湧水を使ってパンを焼き上げていた
ミネラルをご飯にして酵母たちが元気に活動してくれるから、味わい深い仕上がりになっていた ただ、できることなら日本の塩を使いたい、けれど味わいが物足りなく感じもしていたのだった)

竹田 長湯温泉にあるラムネ温泉さんの温泉水は
炭酸水素塩泉という泉質
肌がすべすべになり、鉄分もあり、ミネラルも豊富
大分の塩と温泉水で唯一無二のパンが焼きたい、
焼ける!と手も震えるくらいに興奮していた

そう考えた根底には、
パン屋で使わせていただく素材の中で
多くは輸入に頼っている現実がある
小麦は約90%は輸入されており
自給率の低さに私自身が慄いていたからだ

私は、関わる人との中で
作っていきたいという思いが長く長くあった
粉、塩、水が、大分の大好きな人たちから
分けていただいて作っていけるということ
なんという幸せだろう